だいふくの浜松びより（仮）12

太陽が絶好調だった8月中旬。静岡市蒲原市民センターで『かんばらまつり』が行われた。多くの方が入れ代わり立ち代わり2時間近く踊り続ける「総盆踊り」や、約300発が夜空を彩る「打上げ花火」など多彩な催し物があるお祭り。今回は、その中の一つの催し物としてタイタンお笑いステージが開催された。

出演は脳みそ夫さん、シティホテル3号室さん、清水区出身のコンビ・ツキオラバンカ（蒲原はダイキマンの地元）の３組に加え、我々やらまいかカンパニーも出演させていただく事に。

昼頃に浜松を出発し、電車を乗り継いで会場に到着。その時点ですでにTシャツを一枚交換した。この体型でいる以上は、夏場は必ず、手持ちのアイテムにTシャツ×３が必要なのである。リュックも体もパンパンだ、常に。

久しぶりにタイタンの先輩や後輩に会った気がする。最近ではお笑いライブにすらあまり出ていなかったので、芸人のいる楽屋がとても楽しかった。無事にイベントも終わり、和気あいあいのまま、かんばらまつりを後にした。

▲『かんばらまつり』での一枚。イベントも大盛況で終了

気が付けばまだ19時過ぎ。時間的に、このまま浜松に真っすぐ帰るのもなあ…。

「よし、途中下車するか」

そうして降りた駅は『静岡駅』。静岡県に住んでいながら、まだ一度も行った事が無い。

最近は好奇心にも調子が出てきた。行った事のない場所。ひと昔前だったら飛び込めないような場所。昼でも夜でも、スッと出かけられるようになった。

土曜日の夜ということもあり、たくさんの方が『静岡駅』を利用していた。スーツケースを引いて改札へと向かう女子2人組。ご機嫌なサラリーマンの御一行。あんな風になれたら良いなと憧れるような老夫婦。老若男女様々な組み合わせが街に溢れていた。

せっかくだから観光したい。『駿府城公園』へ向かう。

やたらと人が出てくるし、音楽も聞こえてくる。中に入ると『駿府城夏まつり』が開催されていた。偶然とはいえお祭りのハシゴが出来るなんて、夏すぎて幸せだった。本来ならば、縁日グルメで腹を満たす所だったけど、今日は違う。静岡駅に降りる前から決めていたある目的があった。

▲初めて行った駿府城公園。ライトアップもあり、存在感スゴイ

「静岡おでんが食べたいーッ！！」

静岡県に移住して丸2年。浜松の名物は色々と食べる機会があったが、まだ静岡県の大名物、静岡おでんは食べた事が無い。あの黒いスープが染み込んだおでん。だし粉と青のりをかけるとどんな味がするのか。自分で作る時の参考にしたい…。

体は祭りの賑わいの中にいても、頭の中は静岡おでんの事でいっぱいだ。地図アプリで調べ、美味しそうだと向かった先はおでん街だった。赤ちょうちんを掲げたおでん屋がズラリ。

しかしここで、行き当たりばったりの悪さが出た。今日は土曜日。しかも時間は夜の8時過ぎ。それに加えて世間は夏休み。どこのお店も満席だ。

確実に来るタイミングを間違えている。

おでん街をうろちょろ、うろちょろ。まるで財布を無くした時かのように、くまなく見ながら空いてる席を探したが、そんな席はどこにも無い。

違うおでん街へ。一件だけ入れそうなお店を発見。店主さんと一組のお客さん達がワイワイしていた。あ、入れそうだけど、どうしよう…。盛り上がっている。今入ったら空気を壊しそうだ…。

なかなか一歩を踏み出す勇気が出ない。入ったら何かが起こりそう。嫌われたとしても、一回入って、おでん食べて出てくれば良いか。

うーん、ムリムリ。

何が好奇心に調子が出てきただ。いざ目の前にすると飛び込む勇気がない。昔から特に、こういう空気が苦手。一気にフラッシュバックする。大勢の中の一人ぼっちは、何も気にせずに行動できるのだが、一人一人が目立つ一人ぼっちは本当に苦手。学校のクラスの細かい班分けとかが特に苦手だ。机横に合わせて4人ぐらいとかで喋ったりするやつ。あー、今思い出しても震える。

気がつけば、いくばくかの時間が経過している。

ウン。ムリ。

こういうお店にさらっと入れる男になると決意し、おでん街を後にした。スマホで調べ直して、美味しそうな静岡おでんが食べられる居酒屋さんを見つけた。お店の雰囲気も良さそう。入ってみるとたくさんの人で賑わっていた。店内は、一人が目立たなそうなぐらい広かった。安心。ようやく食べられる。

メニュー表の中に静岡おでんの表記が無かった。「え。ん？無いぞ…？」

店員さんを呼び止め、

「あ、すいません…」

「はい！何にしますか？」

「あの…静岡おでんって…」

「おでん冬からなんですよ！ごめんなさいね！」

「あ…。そうなんですね…」

終了。

カンカンカーンと試合終了の鐘が頭の中で大きく鳴っていた。そこからの記憶は無く、気がつくと生ビールとタコ唐と焼き鳥が目の前に並んでいた。自分で頼んだであろう記憶のないメニューをたいらげ、そそくさと店を出る。