あの頃のように…

 
愛しい瞳に投げキッス

明日 お嫁に行く君に

ボクは たった一枚のサヨナラと

渡し忘れた 言葉を ポケットにしまって

教会の壁にもたれ 明日の君見てる

 

 これは歌詞である。
 文章だけでは表現できないが、もちろんメロディーもある。
 フォークギターを爪弾きながら、スリーフィンガーが丁度お似合いなメロディといえば、わかる人には想像できるかも知れない。
 そんな、臭いメロディー。

 そもそも歌詞が凄いじゃないか。
 いきなり『投げキッス』である。
 照れや恥じらいはないのだろうか?
 しかも、投げたキッスの先が『愛しい瞳』だという。
 はたしてバカが書いた歌詞なのかと疑いたくもなる。

 きっとバカだったのだろう。

 この曲を書いたのは、このオレだ。

 これは中学3年生のときに書いた、オレのオリジナルソングなのだ。

「若いときには、背伸びがしたくなるもんだよ。」

 よく聴く台詞だが、これ以上ない見本がここにある。
 中学3年生の分際で、明日お嫁に行く愛しい人への思いを歌っている。
 そもそも「お嫁」という言葉に時代を感じさせもするけれども…。

 あまりに恥ずかしいので割愛したが、2番の歌詞では、オレは一人でワインを飲んでいるのだ。
 しかも教会の壁にもたれながらである。
 オレは、いったいどんな15才だったのだろう?
 当時は調子に乗って、放課後の教室で友人達に披露していた、恥ずかしい記憶がある。

 初めてギターを手にしたのは、中2の夏だった。この頃オレは、絶対にフォークシンガーになれると信じていた。
 『なる』ではない、『なれる!』である。
 まずはアリスのチャンピオンで、フォークギターのイロハを覚えた。
 吉田拓郎を敬愛した。
 お年玉で、加川良や友部正人のレコードを買い集めた。
 今はなきヤマハのポプコンに出場した事もある。
 地元、栃木の足利地区予選。
 友人に誘われて出たのだ。
 曲は彼の作品で、高校一年の時だった。

 16才の少年のフォークデュオ『萩原くんと小林くん』

 これがグループ名だった。
 そして彼の作ってきた曲も強烈だった。

『スイマセン 彼女をもう一杯』

 サビの歌詞からとったタイトルだったが、二人でハモリながらこのフレーズを繰り返すのだ。

「♪彼女をもう一杯ラララ 彼女をもう一杯ルルル」

 居酒屋の酔っ払いが書いた歌詞ではない。
 16才の少年の書いた歌詞である。

 誰にも恥ずかしい過去はある。
 それでも、その積み重ねで今の自分はあるのだ。
 今でも、オレの部屋に一本のフォークギターが埃をかぶって眠っている。
 それを眺めながら、ときどき思うのだ。
 恐いもの知らずな自分に戻ってみたい。
 なんでもいいけど、一つの作品がつくれた!

 ただ、それだけで有頂天になれた。

 そんなあの頃のように…。

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